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智軍主従の出会い [神成り百鬼夜行]

もう理屈というよりはどうしても放っておけなかっただとか、運命だとか、そういう類のものだったのかもしれませんね

というイフ妄想





全ての妖怪たちの中でただひとりだけが神と成れる。
神により突如知らしめられたこの命に妖怪たちは沸き立った。
最初の方は個々で争っていたが、徐々に思想や利害関係に於いて一致するもの同士が派閥を作り始めていた。
夜刀神もまた僅かながら自らを慕うものたちに寄りつかれてはいたが、安寧を求める思想故に他の派閥に比べて他の者を喰らってやろうという気持ちは弱かった。
自分の最たる武器は知略だ、と夜刀神は自覚していた。
能力を存分に振るうには、自分の場合まずは確固たる地盤を築かなければならない。
その為にはまずあらゆる場所の状況を的確に把握しておかなければ作戦も立てられないと、単身各地を渡り歩いていた。
著名な妖怪ならまだしも、迫害された種族の当主にすぎない夜刀神に敵意を向ける者は少なく、夜刀神自身もそれを見越して比較的安全に諸国を周遊していた。

ある夜、夜刀神は誰もいない戦場跡を一人歩いていた。
地面に残る弾痕を眺め人間の戦争というのは随分と様変わりしたものだと頭の片隅で思考していると、どこからか生き物の発する音が聞こえてきた。
空気を裂くようなそれは獣の声のようであったが咆哮というにはあまりに悲痛な響きで、平らな景色に飽きていた夜刀神は音のする方向へと足を向けた。
戦場の跡を抜け真っ直ぐに歩を進めていくと川が見えた。
どうやら声はその畔にうずくまっているモノから発せられているようだと夜刀神は確信する。
間近で見たそれは、どこか褪せたような毛色の狐だった。
夜刀神がそっと首元に触れると、狐は緩慢な動作で夜刀神の方へ顔を向けた。
狐の左足と左目には銃によって穿たれたであろう傷があり、肉の爛れ落ちた眼窩からとめどなく流れる血は慟哭と相まって涙のように見えた。
「何を泣いている?」
「ころした」
「殺した?何を」
「ころした、つながってわからなくてしんだ」
まるで意味の分からない返答に嘆息する夜刀神だったが、気を取り直し再度会話を試みる。
狐の頬に手を添え、虚ろな目にしっかりと向き合った。
「名前くらいは答えられるか?」
「…おとら」
「おとら、というのか」
「うん、おとらが名前くれたから、おとら」
「そうか、おとらというのか。おとらの話を、ぜひもっと詳しく聞きたいものだ」
「…いいよ」
名前を呼んだ途端に、焦点の合っていなかった狐の目が夜刀神を捉えた。
夜刀神は拙い言葉遣いで話す狐の傍らに腰を下ろした。
ポツリポツリと話すおとらと名乗った狐の話によれば、自分の名は狐が化生となってから初めて憑いた娘の名であり、病身の娘に狐自身の身体に負った傷の責め苦を被せてしまい、離れ方のわからぬうちに負担に耐えきれなかった娘は死んでしまった。
優しくしてくれた娘を殺してしまい、どうしていいかわからずただ泣くばかりであったと。
「おとら、俺のせいで死んだのに名前くれたの。どうして?」
「これは私の推測に過ぎないが、その娘もおとらの
事を好いていたように思うな」
「おとらが?…本当?」
「ああ、嫌っている者に自らの名を与えたりはしないだろうからな」
「おとら、名前をあげる、そしたら私がいたことを忘れないからって言ってた」
「実に聡明な娘だな、そのような心の持ち主に出会えたおとらは運が良かったと思う」
好いた娘を誉められた狐が初めて表情をほころばせた。
緊張の解けた様子の狐の頭を撫でながら夜刀神が続ける。
「おとら、私と一緒に来ないか?」
「え?」
「私は、神に成ることを目指している。それには私一人の力では足りないから、仲間が欲しい。おとらのような心根の優しい仲間が」
「俺は、やさしくない…」
「おとらが非情であったならば、こんなに苦しんではいなかった筈だが?それに、一緒に来れば愛していたおとらの名を、広める事もできる」
「本当に?絶対に?」
「約束する。必要なんだ。おとらがいれば、私はもっと先へ行ける。幸せにしてみせる」
夜刀神の言葉を最後まで聞いた狐は、こくりと頷いた。
刹那、人の姿へ変化し改めて名を名乗る。
「俺は音良。おとら狐の音良だよ。よろしくね、夜刀神さま」
「ああ、よろしく。片時も離れず私の傍にいてくれ、音良」
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